logo 【もしもしweb】

Home / モリテツのスペイン紀行 ❸ 「ジブラルタル海峡へ」(セビリア~カディス~タリファ)

Home / モリテツ
Date: Sep 20, 2020
Author: 編集部 431 コメントはまだありません

今日は楽しい遠足――といった気分だろうか。宿の仲間たちとレンタカーをシェアしてセビリアの南にあたるカディス湾沿いの海辺に遊ぶことになったのだ。

ドライバーはカナダのベン君とドイツの環境NGOメンバー・ケイル君。美帆さんとケイル君は互いに好意を抱き合ったのだろうか、歩く時も手をつないだりでカップル成立の感じ。一人旅同士がこうなると、行き先も話し合って決めるから旅の楽しさは2倍、3倍増だ。

サンタ・フスタ駅構内のレンタカーオフィスで日産・JUKEをレンタル。1日半で5,000円余だ。サンドイッチを買い込んで一路、高速A480ルートに乗って南下する前に、通りがかりのスペイン広場に寄り道。回廊状の池の周りに半円形の古風な建物。とりわけ橋の欄干のタイル模様の精巧さと鮮やかさには目を奪われた。

カディスまで100㌔。がらがらの高速を突っ走ってあっという間に大西洋の大海原に出た。ドイツの内陸部に暮らすケイル君はご機嫌の表情。

今夜はこの近くにあるキャンプ場のバンガローに泊まる予定。いったん街に引き返してカテドラル近くで夕食の買い物。半島の突端にある街にしては人口も10万人以上あり、にぎやかである。

なぜだろうと調べてみると、ここには新大陸との貿易拠点として実権を握っていた通商院が1700年代初めにセビリアから移されて、商都として繁栄。その後、ナポレオン戦争のかの有名なトラファルガーの海戦(1805年)にスペイン無敵艦隊が出港したのもカディス港だった。

もっともこの戦いでナポレオンと組んだ無敵艦隊は英国にこてんぱんにやられて無敵どころではない。無敵というのは16世紀、オスマン帝国軍を破った時代のことを指しているが、この数十年はスペインサッカーの強さの形容詞として世界に通用している。

高級ロッジとも思しきバンガローは1人2,000円の負担。ビーチから数百㍍、潮風の香りもほんのりだ。

カナダの大自然でキャンプ慣れしているベン君が料理長。こんがり焼き上がった肉とセルベッサの旨さは格別だ。ビールはこの国ではセルベッサ。瓶で量り売りしてくれる。

ベン君はギターを持ち出して焚火を囲んでフォークソングを披露。美帆さんはなんと中島みゆきのミリオンセラー「地上の星」を完璧に歌いこなした。

翌日は思わぬコースのプレゼント。なんと70数㌔離れたジブラルタル海峡を経由してセビリアに戻ろうというのだ。

朝8時半、海岸通りのバロサ通りを南東へ下ると、リゾート地帯のロチェへ。岬の海岸線も鮮やか。ケイル君に勧められ美帆嬢とツーショット。

近くには高級リゾートホテルが軒並み建っている。なんとシーズンオフなら3,000円以下で泊まれる見晴らし抜群のホテルもあるとか。

スペイン通りを進んでいたらヨーロッパ通りに入り、そこから分かれた枝道はオランダ、オーストリア、フランス、ルクセンブルク、イタリア通りと欧州各国の国名を付けている。数えたところ、10ヶ国は超えていた。

ジブラルタル海峡の港町タリファからは対岸のモロッコ・タンジェに高速フェリーが出ている。海峡の幅14㌔。所要1時間。33ユーロ。一人なら飛び乗っていただろう。もっともモロッコは、カサブランカもマラケシュも存分に旅しており、さして未練はない。

「今のご時世、やっぱりアフリカからの移民が後を絶たないそうよ。でも、スペインはイタリアやドイツみたいに神経質に騒がず、ゆったりしているところはお国柄ね」と賢い美帆嬢のコメントに男衆、黙ってうなずく。

港の近くにあるのがグスマン城だ。グスマン王の銅像もある。13世紀のこと、モロッコ軍がタリファを包囲。アルフォンソ・グスマン王に「街を明け渡さねば息子を殺す」と威嚇したところ、グスマンはナイフで息子を切りつけて脅しに屈せず、街を守った英雄といわれる。

海峡からの風が気持ちいい。ウィンドサーフィンの名所らしい。セビリアまでは180㌔。遠足から格上げ、修学旅行気分でありました。

森哲志(もりてつし)

作家・ジャーナリスト。日本エッセイスト・クラブ会員。国内外をルポ、ノンフィクション・小説を発表。『もしもし』の「世界旅紀行」は、アフリカ、シルクロードなど10年間連載中。著書近刊に退位にちなんだ「天皇・美智子さま、祈りの三十年」(文藝春秋社・2019.4月刊)。月刊「文藝春秋」3月号に「天皇ご夫妻と東日本大震災」掲載。「団塊諸君一人旅は楽しいぞ」(朝日新聞出版刊)など著書多数。
森哲志公式サイト
mtetu@nifty.com