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Home / モリテツのスペイン紀行 ❹「愉しきセルベッサの日々」(セビリア3)

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Date: Aug 4, 2020
Author: 編集部 159 コメントはまだありません

セビリアは、1週間滞在しても物足りなさが残るだろう。中世と現代がしっとりマッチして、とにかく居心地がいい。宿にも2、3週間滞在の半沈没組が3、4人。訪ねたい名所も3、4日ではこなしきれない。

沈没とは、その土地に埋もれて旅を忘れた者を指すバックパッカー用語である。インドのバラナシ、バンコクのカオサン、中国西域の大理…。有名沈没地がある所は、物価が安く、比較的治安が良く、旅人に親切な土地が多い。私もこれらの地には1週間以上滞留した。

それはともかく、一人旅はこの未練を残しながら「次」に流れるのがまた魅力なのだ。マラガとその地名を口ずさむだけで、心が浮き立つ。世界地理の勉強で憧れた都市が多いスペインならではのことかもしれない。

前夜はセビリアに着いた後、宿の近くで遅い夕食。その帰りに見た大聖堂の目も眩むばかりの美しさに、4人共に「ウオッー」と歓声を上げて盛り上がり、近くのBAR(バル)でまたまたセルベッサの乾杯。少々、二日酔いだ。

セビリアを去る前に一度目にしておきたいのが世界最大の木造建築といわれ、セビリアっ子には「巨大お化けキノコ」と親しまれているメトロポール・パラソル。一体、何者かといえば、ショッピングモールなどが揃った商業施設らしい。駐車場を建設する計画だったが、ローマ時代の遺構が発見されて、急きょ、計画変更。地下に考古学博物館、地上階を商業施設や多目的広場とした。2011年完成だからまだ新しい。

宿から約1㌔。馬車にも乗ってみたいと値段を聞いたら30分30ユーロ。辞めますッ。バスで行けば5分もかからない。

4階建て。高さ28㍍。なにやらジェットコースターを思い起こさせる奇怪な建物である。内部は休憩するベンチも用意され、屋上からは大聖堂なども一望できる。カテドラルなど古い建物よりこちらの方が現代っ子には圧倒的に人気らしい。

若い仲間たちとの別れは名残惜しいけれど、ケイル君と美帆嬢はコルドバに寄った後、2日後にマラガ入りの予定。ベン君はこのままバルセロナへ直行、数週間居座るつもりとか。

「バルサでまた会えるかもしれないね」と持ちかけると、「バックパッカーに評判のホテルがあるからそこに投宿したら…」とベン君。みな二つ返事でOKだ。
朝からバタバタしてくたびれたのでベッドでひと休みしていたら眠りこけてしまった。マラガまでスペイン国鉄の高速列車AVEで2時間。

夕方、駅に向かおうかと荷物整理していたら、美帆嬢がやってきて「ローマから来た女子大生4人組がいたでしょう。彼女たち、フラメンコ博物館のショーの前売り券を持っていたんだけど、急に行けなくなったから安く譲るっていうの。私たちでどうかしら?」とおっしゃる。さんざん世話になっているから断るのも気が引ける。というわけで出発は翌日回し。チケットは名前が記入されており、譲渡は無理なのだが、ローマのお嬢は泣きついて特別扱いをゲットしたとか。

1人24ユーロのチケットを10ユーロの安値で買い入れ、市庁舎の裏にある博物館へ向かった。といっても歩いて10分とかからない。フラメンコバーが散在するサンタ・クルス地区の裏通り。2013年には浩宮皇太子殿下もここを訪れられたという。

午後7時開演。博物館でショーなど聞いたことがない。まあ、お茶を濁す程度かぐらいにタカをくくっていたが、とんでもない。本格派も本格派。もちろん撮影禁止。出演者は合計6人居て、ダンサーは女性2人の計3人。ギタリストと歌手らが3人。ステージを囲んで目の真ん前で迫力ある踊りを披露。奥にはBARもあって、4人共、ワイン片手にリズムをとって今宵も酒宴の兆し。

結局、そのまま帰宅とはいかずに二次会に。宿近くの川沿いに建つかつて見張り番として機能した黄金の塔(トーレ・デル・オロ)を見ながら、旨くて安いセルベッサを楽しみました。

森哲志(もりてつし)

作家・ジャーナリスト。日本エッセイスト・クラブ会員。国内外をルポ、ノンフィクション・小説を発表。『もしもし』の「世界旅紀行」は、アフリカ、シルクロードなど10年間連載中。著書近刊に退位にちなんだ「天皇・美智子さま、祈りの三十年」(文藝春秋社・2019.4月刊)。月刊「文藝春秋」3月号に「天皇ご夫妻と東日本大震災」掲載。「団塊諸君一人旅は楽しいぞ」(朝日新聞出版刊)など著書多数。
森哲志公式サイト
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