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Home / モリテツのスペイン紀行❾「青の競演」(マラガ5)

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Date: Sep 25, 2020
Author: 編集部 73 コメントはまだありません

名刑事夫妻との別れ際、ご婦人から「Frigilianaは行ったの?」と言われた。「No」と返すと、「近いから寄ってみたら」とおっしゃる。ガイドブックによると、山あいに潜む白い美しき村。

もっともスペインの家屋はホワイト系が多いからさして珍しくはないと思うものの、フリヒリアーナだけは格別らしい。腕時計を見るとまだ12時50分。「How long time by bus?」と問いかけると、30分もかからないが、タクシーで行けとおっしゃる。料金は10ユーロちょいとか。「アディオス。グッドラック」と言って二人と握手、近くからタクシーに飛び乗った。

確かにおっしゃる通りで車内でコーラ1本飲まぬ間に着いてしまった。村の入口らしき所で降ろされたが、観光客の姿が目立つ。

この村は元々、ムーア人の手になるらしいが、キリスト系、ユダヤ系、アラブ系の3つの広場を通して互いに交流、仲たがいせず平和な観光村として協力し合っているという。

ここはマラガの東70㌔に当たる。曲がりくねったモザイク模様の路地の脇に白い家が丘の上までびっしり立ち並んでいる。白以外の建物はないのか。見渡した限り、確認できない。

観光客のお目当てはどうやら家々のドアらしい。固く閉ざされた家々の前でスマホやカメラを構え、その前でポーズをとる人たち。

ひとことで言えば、青の競演である。青系の色は5、60種類に上るそうだが、この村にはそのかなりが集積しているだろう。

紺碧、紺青、天色(あまいろ)、花浅葱(はなあさぎ)、千草色……。住民一人一人が色合いを意識して玄関作りをしている。

ベランダもスカイブルー。所々にある土産物屋のコントラストも映えている。

石畳の上り坂は結構きつい。汗もかく。しかし、みんな上を目指して行くので、仕方なしについて行った。まず教会で休憩だ。16世紀ルネッサンス様式の聖アントニオ教会だとか。内部はやっぱりひんやりとして涼し気だ。

前方の椅子に座っていたカップルが立ち上がってこちらへ歩いてきた。日本人のようだ。

30代にしてはなんとなく初々しさがあって手のつなぎ方もぎこちなげ。もしや、と思った時には、図々しくも「ハネムーンですか?」と声をかけてしまった。

「そうなんです」と短髪にブラウンのブレザーを着た男性は愛想よくはっきりした声で答えてくれた。口に出した途端、「しまった」と思ったが、その元気な返答になんだか救われた気分。旅先ならではの遠慮なしの会話だ。

「それにはぴったりの雰囲気ですね、この村は……。おめでとうございます!」と改めて挨拶すると、男性は「いや、どうも。彼女の母に勧められたのです。純白の景色はきっと祝福された感じになるはずよ、って」と。

北陸は金沢からパリ経由でやって来たそうで、旅も9日目だとか。スペインは新婚旅行先としては世界ベストテンに入り、スペインを訪ねたカップルの多くがこの村を訪ねるという。

教会を出て一緒に歩いた。北陸なら現役時代、富山に赴任して金沢にもよく通ってなじみ深い。雪に染まる北陸も冬場は白の世界。でも、同じ白なのに、印象がまるで違う。そう述べると、男性は「空ですよ。日本海側はどんより曇って白が翳って灰色っぽくなってますから」

若奥様は微笑んでいるが、無口なのか頷くだけ。あまり邪魔もできぬ。男性のカメラでツーショットを撮って先に行ってもらった。

ようやく丘の上までたどり着いた。村を一望できる。喉も乾いた。金沢のカップルはテーブルに座って食事中。セルベッサのジョッキを掲げて、ささやかにお祝いのポーズをとった。

森哲志(もりてつし)

作家・ジャーナリスト。日本エッセイスト・クラブ会員。国内外をルポ、ノンフィクション・小説を発表。『もしもし』の「世界旅紀行」は、アフリカ、シルクロードなど10年間連載中。著書近刊に退位にちなんだ「天皇・美智子さま、祈りの三十年」(文藝春秋社・2019.4月刊)。月刊「文藝春秋」3月号に「天皇ご夫妻と東日本大震災」掲載。「団塊諸君一人旅は楽しいぞ」(朝日新聞出版刊)など著書多数。
森哲志公式サイト
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