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紙上 Placemaking
「子どもも大人も、科学で世界が広がる楽しさを」
/西緑地科学クラブ 山下雅道さん・山下明子さん

ニュータウン開発の最後から2番目。昔は「西山」と呼ばれていたエリアに家が建ち、自治会が組織されました。その初代会長になったのが山下雅道さんです。
東京大学卒業後、JAXAの前身である宇宙科学研究所に入所し、宇宙工学、物理学、化学、生物学と幅広い分野で研究を重ねてきました。ノーベル化学賞の研究にも貢献。
退職後はJAXAの名誉教授として宇宙農業の研究を続けています。

山下雅道さん・山下明子さん

そんな理学博士の雅道さんと、奥様である工学博士の明子さんがタッグを組んで、子どもも大人も「科学って楽しい!」を体感し、サイエンス・リテラシー(科学を使いこなし、現象を理解し判断する能力)を高める取り組みを展開。それが『西緑地科学クラブ』です。

拠点である自治会館「西緑地会館」の周囲に広がる、タマノカンアオイやトウキョウサンソウウオが棲息するような豊かな自然を知ってもらおうという目的もあります。
ただし、コロナ禍、そして会館周辺のベビーブームの収まりに伴い小学生の数が少なくなってきたことなどから、現在は、長池公園科学クラブの催しがメイン。

他にも、近隣の小学校3校(秋葉台、松木、別所)でのカイコ飼育の支援やシルク授業も行なっています。

取材当日は、桑都八王子だけに、「カイコ・シルク体験」(全3回)の第2回。
参加者は、第1回で3齢カイコを持ち帰り、自らクワの葉を探し、採取。毎日新鮮なクワの葉をあげ続け、大切に育てました。
持ち帰って、20日ほど経つと、カイコは繭作りをスタート。1頭が吐き出す糸は、1.5kmにもなるのだとか。そして、第2回でそのカイコが作った繭を持参。
そこから真綿を作る過程でした。

繭の端を切り取り、蛹を取り出します

繭の端を切り、中からカイコの蛹を取り出します。
コロンと転がる蛹。
「カイコのことを、可愛い、可愛いと言って育ててました」と親子連れでの参加のお母さん。
繭は白色と黄色の2種類。色をつけたの?と思っていたら、
「白がオス、黄色がメスで、黄色い糸を吐く品種なんです」とのこと。ほほう。
そして、他に比べて一回り大きな繭も。
「これ、2頭が入っているかもしれませんね」と山下さん。
取り出すと、本当だ! 2頭の蛹。

一回り大きめの繭の端を切り取ると

中から蛹が2頭、コロリと

いろんな不思議や発見があります。やっぱり自然って、すごい。

繭は重曹を入れたお湯で、コトコト茹でます。

自分の繭を袋に入れて、鍋に

コトコト茹でます

そうすることで糸を固めていた成分が溶け、繭をほぐしやすくするのだそうです。

その間に、用意されていたふかふかの真綿をほぐし糸に紡ぐ体験も。

用意されていた真綿を丁寧にほぐしていきます

そう、シルクです。
丁寧にほぐせばほぐすほど、艶やかなふんわりふわふわの手触りに。
そして、これを糸に紡いでいく体験も。

ほぐした真綿を細い糸に紡いでいきます

そんなことをしていたら、繭が茹で上がりました。

茹で上がった繭は水の中でゆっくりと広げ、四角い木枠に張っていきます。
繭はとっても繊細なので、切らないように、丁寧に、優しく。

水の中で繭を広げ、持ち上げ、丁寧に広げていきます

木枠に貼って乾燥させます

希望者は、インド茜の木の根を使って味わいのある茜色に仕上げもします。

インド茜で染めると綺麗な茜色に

第2回の作業はここまでで、木枠に張った状態で持ち帰って、乾かし、糸に紡いでおきます。
そして1ヶ月後の第3回では、家で紡いできた糸を使って手織り作業を体験するそうです。

「カイコは古くに家畜化された昆虫だけに、手のひらに乗せても威嚇するような素振りはしませんし、飼い方はよくわかっています。蛹から蛾にして産卵させて、と、いのちのつながりを見ることも可能です。今回参加してくださった第2回では 体験を気にいってくれたのか 帰り際に大きく手を振ってくれたお子さんもいて、カイコやシルクを準備してきたかいがありました」と山下さんは、話します。

当日、まだ蛹になっていなかったカイコが中に

繭から作り上げた糸を使って、自分だけの絹織物を3ヶ月かけて作る今回の体験。
参加されていた方々の間にはぎゅっとつまる、初めての体験での驚きや発見!
子どもも大人もワクワク感に溢れていました。

『霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」のストーリーで、日本遺産の認定を受けている八王子市。
そこには、「桑都」と称され、養蚕や織物で発展してきた八王子の歴史を、高尾山との繋がりによって、過去から現在、そして未来へと紡いでいく物語があると言われます。

「ただ、現在桑畑はわずかに残るばかりで、養蚕家も1軒のみ。カイコを飼育し、収穫した繭から真綿を作り、糸を紡ぎ、織物を作るという体験は、貴重なものだと思います。その後の何かにもつながっていく」と山下さん。

知らなかったことを知る喜び、世界が広がる楽しさ。
そこには年齢は関係ありません。
「面白そう」と思ったら、やれるのなら、ためらわずにやってみる。
おすすめです。ぜひ!

プロフィール

西緑地科学クラブ

八王子市越野の自治会館「西緑地会館」(GoogleMapで開く)を活動拠点とした地域の科学クラブ。子どもやその保護者に科学する楽しさを体験してもらい、サイエンス・リテラシーを高めてもらうことを目的に2015年4月スタート。天文、生物、物理、化学、食品科学など幅広いテーマで展開。現在、長池公園科学クラブでの催しがメイン(こちらから)。また、近くの小学校3校(秋葉台、松木、別所)で、カイコ飼育の支援やシルク授業をしたり由木地区環境市民会議としての活動も行なっている。

公式WEBはこちらから

 

プレイスメイキング とは
そこに行ったら人と出会えて、つながって、ワクワクドキドキ楽しい時間が過ごせて、笑顔が広がって、まちが盛り上がる何かを作り出せる。そんな空間を、私たちが普段暮らすまちの中に作る取り組みが「プレイスメイキング」。

紙上プレイスメイキング とは
『もしもし』紙上が、そんな「プレイスメイキング 」の場になりたい。『もしもし』に触れることで、新しい人とつながったり、ドキドキワクワクの思いが広がったり、新しい発見があったり、このまちで暮らしていることを嬉しく思ったり、安心したり、心が豊かになったり。そして人に優しくしたいなと思えてきたり。そんな『もしもし』を皆さんに届けたい、一緒にこのまちを楽しい場所にしていくきっかけになれたら。そんな思いを込めました。

 


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