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スペイン紀行19「世の中、甘くはありません」(バレンシアその4)

クレマンさんのスマホ画面には「カジノで大勝ちしたのさ。バレンシアは最高だ!」とあった。到着間もなくほぼ1日半、行方知れずだったわけはこれだったのだ。ところが、そこにもう一人、「人は見かけによらぬもの」が素っ頓狂な声をあげた。

「ウワッ。私も連れてって」美帆嬢である。ドイツのお堅いNGOスタッフで医学生のケイル君は心配そう。3人がこちらを注視した。内心「よし、勝負」と腹は固まっているが、「みんなが行くなら」と柄にもなく控えめに言った。

翌日午後、出立。ポーカーで勝ちまくったクレマンさんは柳の下のドジョウ狙いでやる気満々。ケイル君は「旅の予算に食い込まぬよう慎重に」と美帆嬢に語りかけるが、彼女はどこか上の空。4人4様、国民性を反映しているかのよう。

世界のギャンブル好きといえば、米中日がダントツ。これにブックメーカーの英、トトカルチョの伊、競馬の仏と続き、10位スペインがベストテン(米経済誌『フォーブス』調べ)。美帆嬢は中国系の血筋に加え、本場英国でもまれたか。

カジノ・シルサ・バレンシアはタクシーで5分とかからなかったが、市の郊外部に近い所に派手なネオンの建物がぽつねんとあった。日本のパチンコ屋とそう変わらない感じ。クレマンさんがパスポートを見せて先頭で入った。続いて行こうとするとストップ。最初の入場者は5ユーロを支払うのだとか。ドリンク付きで2回目から無料。ノーネクタイに半そでシャツ、チノパンでドレスコードはさして厳しくない。

パチンコ屋並みなどと失礼なことを申してしまいました。さすがの内装。ガラス張りのロビーに多彩なアトラクション、歌とダンスショー。煌びやかな雰囲気満載だ。

クレマンさんはすぐにポーカーのテーブルへ。美帆嬢はアメリカン・ルーレットのテーブルへ。小生はブントバンコ卓へ。これはバカラのこと。カジノはマカオで鍛えている。あの『深夜特急』(沢木耕太郎作)で有名になった「大小」にハマったのがなれそめでバカラにも熱中。

ケイル君はバクチなど馴染みがないのか、スロットマシン前に座った。カジノで一番ポピュラーである。ここにも100台以上並んでいるらしい。スペイン語でトラガペラ(Tragaperra)という。「Tragar」は「飲む」、「Perra」は「硬貨」の俗称。合わせて「金を吸い取るマシン」。なるほど。

人のことにかまっていられぬ。集中力だ、とバカラに挑んだものの、バンカーに賭けるとプレーヤーの目が出るし、逆にするとまた裏目とツイておらず、15分もしないうちに50ユーロ(6,000円)ほどやられた。

ルーレットに移ってみると、美帆嬢も機嫌良さそうな顔はしていない。ここでも7、8回賭けて負け。クレマンさんの様子を伺うと、親指を立てる感じではないようだ。そうそうドジョウなどいるものか。

1時間半ほど続けたか。3人共あきらめて合流、ケイル君を誘って帰ろうとすると、なんとトラガペラ前に座り込んで皿はコインで満杯。

「カジノは最高!」と顔を紅潮させてコインをジャラジャラ。全くこれだからギャンブルはわからない。350ユーロ(44,000円)の儲け。勇躍胸を張って先頭を歩くケイル君の後ろから3人すごすご。

「オルチャータでも飲んでいこうよ」という美帆嬢の誘いでレイナ広場を目指したが、運転手が勘違いして市庁舎前通りに。面倒なので降りた。これが市庁舎か。内部はもっと驚き。豪華なシャンデリアがぶら下がる役所である。サンタ・カタリーナ教会を経てオルチャータ専門店へ。オルチャータは、食用ガヤツリの茎を絞って蜂蜜を加えたバレンシア特産ジュース。カジノで熱くなった頭を冷やすに適度な冷たさ。真っ昼間からバクチに夢中になった天罰に3人共々、神妙な顔でストローをすすった。

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