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モリテツのスペイン紀行❿ 「イサベルを訪ねて」(マラガ6)

バスでマラガに戻ると、西の空に見事な夕焼けが広がっていた。宿に戻る途中、小腹もすいたのでタパスバーに寄り道。ピカソ美術館のすぐそば。巨匠の壁絵を横目に、スペイン一名高い老舗「エル・ピンピ」へ。
18世紀の伝統建築の中はまるで美術館の様相。壁に大きな絵がかけられ、反対側にはワイン樽が積み上げられ、訪れた有名人がサインしている。007のショーン・コネリー、テニスのラファエル・ナダル、元国王ファン・カルロス一世、マラガ生まれのスペインの人気俳優アントニオ・バンデラス……。さっそくスペイン版サンドイッチのモンタディートスと隣のテーブルの家族が食べていたタパス?がおいしそうなので真似て注文、冷たいセルベッサで夕食代わりだ。

スマホを開くと、美帆嬢とケイル君からメールが来ていた。

「グラナダのアルハンブラ宮殿は一見の価値あり。日帰りでも行ってみては」とある。彼ら2人は確かコルドバに向かったはず、と問い返すと、「セビリアから2時間かけて高速バスでコルドバに行ったものの、その町並みに興味が持てず、一泊して翌朝にはグラナダに向かったの」とのこと。

これからマラガに向かうそうだから、再会が楽しみ。美帆嬢によると、マラガ〜グラナダ間は1時間に一本の割でALSAのバスが出ており、所要時間も1時間半。強く推奨されて、日帰り観光を決断させられた。

バスは、シエラネバダ山脈の麓を北上してグラナダに向かっている。ネルハから30分、やはり白い集落アルムニェーカルを過ぎると、バスは左に折れるように北上、地中海の青い海が消え、緑濃い山あいへ。

アルムニェーカルは、紀元前、ローマ帝国の一都市として、塩漬け魚の名産地として発展、独自の通貨を流通させるほどの経済力をつけ、劇場や水道橋、神殿建設などを誇った歴史的な町だとか。

山並みの彼方、白い風車が見える。緑のオリーブ畑も一面に広がる。日本のように道路沿いに広告板がべたべたと立っていない。道路標識だけなのですっきりしてはいるが、名所案内など観光面のPRや表示もないから退屈といえば退屈。いつのまにか居眠りしてしまった。

グラナダのバスステーションから市バスの33番に乗ってカテドラルへ。目の前に街の中心ヌエバ広場の噴水。まずはカテドラルを見学だ。世界中で教会を見過ぎて感興に鈍くなっているが、内部の涼しさがなにより愉しみという横着者である。

それでも金色艶やかな教会の天井を見上げてしばし休憩。ここには、カスティーリャ王国の実力派女王イサベルの棺も納められている。すぐ近くのイサベル・ラ・カトリカ広場には、イサベル女王とコロンブスが向き合った銅像もある。マルコ・ポーロの『東方見聞録』に刺激を受けたコロンブスは大航海を夢見たものの、自国のイタリア王には援助を拒否され、スペインに渡って女王と面会。一度は拒絶されたものの、1492年グラナダを陥落させると、女王は自らの意思でコロンブスに資金を提供。新大陸発見の扉をこじ開けたということだ。

プロフィール

森哲志(もりてつし)
作家・ジャーナリスト。日本エッセイスト・クラブ会員。国内外をルポ、ノンフィクション・小説を発表。『もしもし』の「世界旅紀行」は、アフリカ、シルクロードなど10年間連載中。著書近刊に退位にちなんだ「天皇・美智子さま、祈りの三十年」(文藝春秋社・2019.4月刊)。月刊「文藝春秋」3月号に「天皇ご夫妻と東日本大震災」掲載。「団塊諸君一人旅は楽しいぞ」(朝日新聞出版刊)など著書多数。
森哲志公式サイト
mtetu@nifty.com

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