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モリテツのスペイン紀行⓬ 「カウボーイ、銃を抜く」(アルメリア)

マラガの先は地中海沿いに北上してバレンシアに向かう。距離にして460㌔余。renfe(スペイン版超特急)だと内陸のマドリード経由で所要7時間。どうも気が進まない。やっぱり海沿いに進みたい。
のんびりできる田舎町を間に入れるか、と地図を眺めていると、ケイル君が「それならアルメニア経由のムルシアがいい。僕らもそのコース」とおっしゃる。
ローカル鉄道も悪くないと調べた結果、マラガから北に海岸沿いには鉄道がない。バレンシアまでなく、その先、バルセロナ間はある。そういえば、マラガからポルトガル国境にかけても鉄道網はなく、点在する鉄道駅はすべて内陸(マドリード方面)からのどん詰まり駅。リゾート都市が並ぶ地中海沿岸のアンダルシア地方は人口10万人以上の町もあり、過疎地ではない。一年中、欧州中の観光客で賑わい、夏はビーチ、冬はスキー客で盛況。なぜなのか、ちょい理解に苦しむ。
アルメリアにはマラガからALSAのバスでアルムニェーカルを通って3時間。翌日、宿の仲間に別れを告げてバスターミナルに向かった。ケイル君と美帆嬢は後からレンタカーで追いかけるという。
午後12時10分発のバスは定刻通り。さすがに外の風景は見飽きて居眠り中に到着。鉄道とバスが一体になったターミナルだ。
アルメリアは織物やアフリカ産香料の輸出入で栄えたそうだが、近年は思わぬ観光収入で潤うことになった。ヨーロッパに砂漠があるとは夢にも思わない。シェラネバダ山脈にあるタベルナス砂漠がその唯一の存在。樹木は朽ち果て、荒涼とした風景は、サハラ砂漠などとは趣が違う。
そこになんとマカロニウエスタンのロケ村を1960年代に作ったというのだから、どこにも知恵者はいる。あの「夕陽のガンマン」や「荒野の用心棒」、さらには「アラビアのロレンス」もここで撮影されて人気急上昇。
スティーヴン・スピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ」(ハリソン・フォード主演)のロケで一層拍車がかかり、今では世界中から観光客が押し掛ける観光名所。翌朝、さっそく出かけてみた。
街の北30㌔。フォートブラボーともテキサス・ハリウッドとも呼ばれる。なるほど入り口には星条旗がはためいている。
なんとも造りが凝っている。広場を中心に酒場やホテル、銀行、商店が並び、保安官事務所や刑務所、厩なども揃い、一方には貧しげなメキシコの街並みも。馬に跨り談笑していた保安官が砂埃をあげて疾駆していった。と、いきなりカウボーイが銃を抜いてこちらに構えた。バーの中ではテーブルでカードを楽しむ男たちも。
すっかり西部劇の時代にタイムスリップだ。ハリソン・フォードのスタント役を務めたスタッフもいるという。銀行を襲った拳銃強盗と撃ち合ったり、格闘したりするアクションショーもあるとか。
アルメリアには一泊しかしない。早めに切り上げて、街をぶらついた。といっても、どこを歩いてもまず大聖堂。「いやはやご遠慮します」とパスしたいところだが、神様を無視しているようで通り過ぎるのも後味が悪い。
それにしても、アルメリア大聖堂はヤシの木に囲まれているうえ、粗削りというか、ごつごつした外装で無骨な感じではないか。教会の椅子に座り込んで調べてみると、地中海を渡って襲ってくる海賊どもを反撃する要塞だったらしい。平和を唱えつつ、戦も拒まずということか。
ということは、当然、本物の要塞もあるだろう、とマップを見ると、総延長400㍍余のアルカサバ要塞遺跡がある。写真で見るとミニミニ万里の長城風。
教会を出て歩いていたらヨットハーバーに出た。なんと海の美しいこと。これなら岬があるカボ・デ・ガタ・ニハル自然公園まで出かける価値がある。
ここも、「インディージョーンズ・最後の聖戦」のロケ地。バスターミナルから50分。アルメリアは一年のうち3,000時間は青空の日とか。駆け足で断崖の海を見て、引き返してBarに飛び込んだ。アルメリアはビールを一つ頼むと、生ハムやチーズのタパスがたっぷりついてくる。日本のお通しの10倍はあって、つい頬も緩んでしまうのである。

 

プロフィール

森哲志(もりてつし)
作家・ジャーナリスト。日本エッセイスト・クラブ会員。国内外をルポ、ノンフィクション・小説を発表。『もしもし』の「世界旅紀行」は、アフリカ、シルクロードなど10年間連載中。著書近刊に退位にちなんだ「天皇・美智子さま、祈りの三十年」(文藝春秋社・2019.4月刊)。月刊「文藝春秋」3月号に「天皇ご夫妻と東日本大震災」掲載。「団塊諸君一人旅は楽しいぞ」(朝日新聞出版刊)など著書多数。
森哲志公式サイト
mtetu@nifty.com

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