TamaHito 27
宇井 眞紀子 さん
写真家として向き合うアイヌの人々
アシリレラさんとの出会い
日本列島北部、とりわけ北海道に古くから住んでいるアイヌの人々は、自然の豊かな恵みを受け、独自の言語や文化を築き上げてきた先住民族です。
「小さな子どもが誤ってコップの水をこぼしてしまった時、『あー、そこに水を飲みたい人(カムイ)がいたんだね』というのがアイヌの世界観。おおらかで、こういう気持ちで子どもを育てたいと思いました」とは写真家の宇井眞紀子さん。アイヌの人々を、29年にわたり取材し続けています。
きっかけは、1992年、北海道の二風谷に暮らすアイヌの女性、アシリレラさんとの出会いから。当時、〝アイヌの聖地が壊されてしまう〟と二風谷ダム建設中止を訴えていたアシリレラさん。彼女の思いを綴った文章を偶然目にし、衝撃を受けた宇井さんは、直接手紙を出しました。
「〝この人に会いたい、アイヌのことが知りたい〟という一心でした」
すぐに『泊まるところもあるからおいで』との返事。それから、毎月のように二風谷に通うように。アシリレラさんを中心に、伝統的な茅葺きのチセ(家)で、アイヌ文化を学びながら共同生活を送る国内外から集まった人々。そこには彼女が里子や養子として育てた子ども達もいました。宇井さんは生活を共にする中で、アイヌの生活とその現状を体感していきました。
「アシリレラさんの言葉〝人間は自然の一部で、自然の中で生かされている〟を実感し、人間の力の及ばない存在を感じて生きることの大切さを知りました。共同生活の中、アイヌの人達と仲良くなり、次第に写真も撮るようになりました」
その後、北海道ばかりでなく日本各地や首都圏で暮らすアイヌの人々も訪ねる等、宇井さんの交流は広がっていきます。
その人に寄り添い、写真を撮ること
宇井さんが大切にしているのは、撮影の対象となる人に寄り添うことです。
「写真を撮ることは、被写体(自分とは違う他者)との関係性を問うこと。撮影する私自身が、こんな人間だと知ってもらうことが大事です。常に〝自分はアイヌの人とちゃんと向き合えているのか〟を問いかけています」
2/16(火)~22(月)(18日休館10:00~18:00※最終日17:00迄)、写真展「アイヌ、現代の肖像」が多摩市立永山公民館で開催されます。宇井さんが捉えたアイヌの世界観、時に差別や偏見と向き合ってきた人々の姿。あなたはどのように感じるでしょう。
プロフィール
写真家。1960年、千葉県出身。東村山市在住。1983年、武蔵野美術大学卒業。1985年、日本写真芸術専門学校卒業。卒業と同時にフリーランスとして活動。1992年、子どもを連れてアイヌ民族の取材を始める。写真集に『アイヌ、風の肖像』(新泉社)、『アイヌときどき日本人』(社会評論社)、『アイヌ、100人のいま』(冬青社)他。第4回さがみはら写真新人奨励賞、第28回東川賞特別作家賞、第1回笹本恒子写真賞受賞。