TamaHito 41
馬場 寛明 さん
人と自然、人と人をつなげる 「田んぼのわ(TANBO NO WA)」
3畝(約90坪)の
小さな田んぼからスタート
かつては「多摩の米蔵」ともいわれた日野市。しかし現在、米の耕作地は住宅や道路に変わり、その面影を見ることはなかなか難しくなりました。そんな中、多摩川と浅川が合流する少し上流の地に田んぼを見つけました。住宅街の中、面積は小さいながらも、緑の稲穂が美しい。なんだか、ほっとする情景です。
この田んぼを耕作するのが「TANBO NO WA(田んぼのわ)」代表の馬場寛明さん。2009年から自然栽培の米作りを開始し、また、その米作りを通して、人と自然、人と人がつながり、楽しみ、学べる場、コミュニティ作りなどの活動を行っています。
馬場さんが米作りを始めたのは、就農前、自然食を扱う会社での経験から。
当時つきあいのあった農家さんから教えられた、農薬はもちろん、肥料も一切使わない自然栽培に感銘を受けたからと言います。
「手間もかかるし大変な自然栽培。でも信念を持って続けている農家さんの姿に、自分もチャレンジしてみたいと思いました」と馬場さん。
2009年、休耕田を借りて稲作を開始。年々、田んぼの数が増えるとともに、関わる仲間も増えていきました。「子どもも大人も一緒に作業するのは楽しいし、季節を感じながら過ごすのも大事。自然の中で体験したことは、私たちの中の根っこを育ててくれます」と語ります。
2017年には、日野市落川交流センター敷地内に田んぼを造成。それは、重機作業の前にスコップで石だらけの敷地を掘りながら、イメージをカタチにしていくゼロからの田んぼ作りで、新たな試みでした。その後も、少しずつ耕作地を増やしていった馬場さん。そこには市内の田園地帯を絶やしたくないという思いがありました。
都市部にある〝田んぼ〟
だからこそ…
「〝いつ宅地になってもおかしくない〟のが都市部の農地が抱える現状です。食物を作るだけではない、別の価値も、都市部の農地にはあると思います。日本に昔からある〝稲作文化〟を再発信すること、また、田んぼが作り出すその美しい景観を残すことも大切です。そのためにも田んぼを残し、次世代につなげていきたい」と馬場さん。
現在、多くの人に〝田んぼ〟を体験してほしいと、ワークショップを開催。米の加工品の販売等も精力的に行い、さまざまなカタチで「田んぼのわ」を拡げています。
■「TANBO NO WA」馬場さんが手がける田んぼをご紹介
「新井四兄妹田んぼ」
2009年春、子育て仲間の紹介により、大家の土方さんから休耕田を借りて稲作を始めた馬場さん。期待と不安の 中、多くの人の助けで、田植え、収穫、天日干し、脱穀、籾摺りと、一連の稲作作業を行うことができました。 翌2010年、さらに2枚の田んぼを復活させて、初年度にできた田んぼを「長男」、2年目に誕生した、用水路に隣 接した管理しやすい田んぼを「次男」、 同じく2年目の、水位が低く、排水がしづらい手間のかかるものを「三 男」田んぼと名付けました。そして3年目には、一番面積の大きい「長女」田んぼが誕生。 作業量が増えるとともに、関わる仲間も増えてきて「田んぼのわ」が拡がりはじめました。
「ひょうたん田んぼ」
2017年、日野市落川交流センター運営委員会の事務局長・原耕造さんから声をかけられて、敷地内に田んぼを造 成することになりました。重機作業の前にスコップで石だらけの敷地を掘りながら、イメージをカタチにしていく 〝ゼロからの田んぼ作り〟。掘っても掘っても石だらけ。スコップもなかなか刺さらず、ついにショベルカーの出 動。そうして、ようやく2枚の棚田土台が完成。なんだか、ひょうたんみたいな「ひょうたん田んぼ」が生まれま した。
2018年には、「ひょうたん田んぼ」の川上に、冷たい水を温めるためのもう1つ丸い田んぼ(溜池)を、 翌年には川下にマコモ池を作りました。2020 年、畔を盛り、また稲の多年草化を調査する一番小さな丸い田んぼ を造成。合わせて5つとなった丸い田んぼたちは、「ひょうたん田んぼ」と呼びながらも、まるで「惑星田んぼ」 といった方が良いかもしれません。
「新三反田んぼ」
〝いつ宅地になってもおかしくない〟のが都市部の農地が抱える現状。2009年より耕作してきた「四兄妹田ん ぼ」も、住宅化が進む市内の田園地帯と同様、いつ住宅になってもおかしくない状況でした。 「このまま受け身の姿勢では、田んぼが無くなってしまう…」との思いから、農業委員会の方に、借りられる田ん ぼがないかをお願いしました。そして『一般社団法人東京農業会議』の紹介で、奇跡的に「四兄妹田んぼ」と同じ 用水組合内にある田んぼを借りることができました。 2019年、一枚が約1反(300坪)の田んぼが3枚ある新しい田んぼ、「新三反田んぼ」の誕生です。
動画では、馬場さんの耕作する日野市内の田んぼの風景をご覧いただけます
プロフィール
日野市生まれ、日野市在住。「TANBO NO WA」代表。自然食を扱う『(株)ナチュラル・ハーモニー』で2018年まで店舗運営、イベント企画、商品作り等に携わる。その傍ら、2009年に休耕田を借りて稲作を始める。2019年、米作りの他に各種ワークショップの開催、米加工品の販売等、新たな事業を本格的にスタート。『TANBO NO WA』https://tanbonowa.com/