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スペイン紀行21「サヨナラ、バレンシア」(バレンシアその6)

翌日、ケイル・美帆カップルはバレンシアの沖合150㌔に浮かぶ、島ごと世界遺産のイビサ島に遊びに出かけた。往復の航空運賃3,500円。所要50分間だから、日帰りという。誘われて心動かされたが、そうそう邪魔ばかりもしていられぬ、と遠慮した。

ここは、一年中青空だが、この数日、気温がガンガン上がって連日35度超。ただ湿気がなく、カラッとしているので、日本のようなむさ苦しさを覚えない。確かにこんな時は海が一番、と二人の背中を見送りながら、「ヨシッ、俺も」と小型スーツケースから海パンを取り出して自転車にまたがった。

水族館を出た後、海まで1㌔余りというので寄り道しようと話し合ったものの、ついセルベッサ宴会が長引いて忘れてしまったのだ。

バレンシア滞在もそろそろ幕引き。この先、地中海沿いに立ち寄るべき街もなく、Renfeでバルセロナまで直行。その先は内陸の旅となるので地中海も見納めだ。

自転車だと、つぶさに街を観察できて退屈しない。銀行の前でアコーディオン弾きが民謡だろうか奏でていた。大通りのブラスコ・イバニェス通りを突き進むと、時計台が見事な州政府・港湾事務所に突き当たった。潮風が気持ちいい。通りを渡ると、目の前にヨットハーバー。
人影がない。ビーチは一体どこなんだ?と港湾施設が並ぶ埠頭を突き抜けながらペダルを踏み続けていると、いきなり視界が開けてヤシの木が連なるビーチリゾートへ。プラヤ・デ・ラスアレーナスと呼ばれる海水浴場だ。

砂が熱くて波打ち際まで裸足ではとても歩けぬ。と、踏み板の渡りが作られていた。そのそばには何だろう、伝説の神々を祀った砂の像なのか。レストランで聞くと、アーティストが10日間かけてこしらえたのだそうだ。ひと月の降雨量10㍉足らずならではの芸術か。

ビーチは予想以上に混雑していた。8月は国民こぞって夏休みの真っ最中。スペインも有給休暇はフランス並みにほぼ1ヶ月間が普通だとか。少なくても3週間は必ずとる。その間、店も会社も休みである。Barやレストランの勤務者も同じように休む。さらには、普通のサラリーマンでもセカンドハウスを持っているという。自前がなければ、マンションの一室などを借りる。

バレンシア圏の人々は夏には皆ここに押し寄せてくるのだから湘南海岸並みの混雑は当たり前か。海辺で日焼けしながらきちんとシエスタもとるとか。なんとも理解しがたい。

海は思っていたほど綺麗ではない。元々、海水浴場よりエメラルドブルーの水深のある無人の岩場や入り江で泳ぐのが好みなので、カラスの水浴び並みの早さで引き揚げた。砂浜は熱くてやけどしそうなのでたまらずレストランに逃げ込む。年のせいか、昔みたいに海を楽しめなくなったのは実に心寂しい。

突然、明日にも旅立ちたくなった。旅の友とはバルセロナで再会する。宿の筋向かいにある教会の巡礼室に座って調べたところ、バルセロナへはユーロメッドの特急でわずか3時間。時には食事付きの一等車にでもするか。といっても60ユーロ(7,500円)だ。

夏休み中で混んでいるからすぐにもノルド駅まで行って切符を買わねばならぬ。自転車で汗だくで駆けつけたが売り場はガラガラ。乗車券も楽にゲットできた。さすがに構内は賑わっていたが、さほどでもない。

宿に帰ると、有難いことに、この日チェックインした日本人女性が手作りの夕食を振る舞ってくれた。白いご飯に羊肉のステーキか。レンタル自転車屋から旨い店、見どころなどを代わりに教えて「ごちそう様」。

例のカップルはまだ帰宅していない。メールを出してみると、すぐに返信。

「こんな絶景の島、やはり一泊していきます」と、イビサ島の夕景の写真付き。クレマンさんにもバルセロナの宿を教えて再会を約束。握手した途端、また心寂しさを覚えた。旅はこの静かな感情の起伏がいい。

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