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モリテツのスペイン紀行 39「やるせなき悟りのパエリア」(テラディロス~レオン)

巡礼者でもないのにアルベルゲに泊まっても、よそ者とか異端者といった視線も雰囲気もない。このあたりは島国の日本と違って開放的というかフレンドリーで、正直、心から感謝してしまう。

実は、夕食の席でオランダから来たシニアのヤン夫妻の奥さんに「スーパームーンの暁に幻想的な素晴らしい光景に出合えるのよ。それが目的で再来したの」と言われた。一体、何のことか?

「朝5時起きで出発したら巡り合えるわ」

翌早暁、ケイル君、美帆嬢と3人で出かけた。風がそよぎ、木立が鳴る。地面を突く巡礼者の杖の音だけが暗闇に響く。砂利道を3㌔近く歩いたか。モラティノスという村を通り抜けて間もなく、前方の畑が妖しげに光っている。満月の夜。不気味でさえある。思わず立ち止まった。

「畑が変な感じね」と美帆嬢。まだ夜は明けていない。慎重に近づいて「あっ」と3人揃って声が漏れた。無数のひまわりが月夜に輝いている。地平線の彼方まで連なる黄色い大輪。残念だが、その迫力は我が写真では伝わらない。

「なんて神秘的なのだ」とケイル君。「ロマンティックねえ」と美帆嬢。2人は地面に座り込んだ。オヤジは邪魔だ。足音を忍ばせて20㍍ほど離れた。夜が明けてゆく。その変化が素晴らしい。朝日が昇るにつれ、月が白い円となって遠ざかり、彼方に霞んでいく一方で、ひまわりたちが鮮やかな橙色の顔を一斉に大空に向けて微笑んだのだ

もう少し歩いてみよう。丁寧に小石を積み上げた墓標があった。こんな平地で……。いや、メセタの過酷さがこのあたりで露呈したのかもしれない。牧歌的な光景にも出合い、ゆったりした気分になる。白馬にまたがって農作業に向かう少年。森道に1人立って民族楽器を奏でる青年。通行人に見向きもせず、一心に奏でている。何かの祈りを込めてのことか。

サアグンという町まで歩いてバスに乗った。巡礼路800㌔の真ん中に位置するらしく、教会では「歩き半分成就」の証明書を発行しているとか。目指すレオンまでは50㌔。丘の上からレオンの街並みが望めた。街の輪郭が大きい。旧レオン王国の都。カスティーリャ・イ・レオン州レオン県の県都、人口20万人。レオン駅近くで降り、街を貫くベルネスガ川沿いのサント・ドミンゴ広場に向かった。緑濃い公園では備え付けのフィットネスマシンでお年寄りが運動している。

レオン大聖堂はスペイン国内でも屈指の出来栄えらしい。14世紀のゴシック建築。豪華絢爛なステンドグラスを見るために訪れる観光客が多い。5ユーロの入場料を払って観てみた。確かに壁と天井一面を飾るその美しさには圧倒されるけれど、人が多くてうんざりだ。

ケイル君らと別れ、目抜きのアンチャ通りを歩き、たまには贅沢をとテラス風の高級レストランに入った。メニューにおいしそうな海鮮パエリアの写真。高価だけど奮発した。運ばれてきた一品を見て唖然……。見かけと中身は大違い。小海老1匹。ミニイカリング1個。鍋底もえらく浅い。味もダメ。

隣の韓国人客も憮然。悔しいからナプキンに書きつけてやった。さらに「Inchiki」と書いてスペイン語で「辞書で調べろ」。柄にもなく高級店に入ったのがまずかった。食い直しだ。裏寂れた路地に入った。黒猫が横切り、雰囲気一変だ。木戸が腐って傾きかけた家々。壁はペンキの落書だらけ。公衆電話本体も持ち去られて、ない。表と裏で差がありすぎる。安BARに入ってメキシカン・タパスを注文した。3分の1の値で3倍は旨い。うーん。やっぱり人には似合い不似合いがあるのだ、とやるせなく悟りつつ、もう1個注文した。

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