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Tama Hito 64
谷津 賢二 さん
「中村哲医師の思索と実践、それを今も継いでいきたい」

記録は残る だから伝えられる、後世に

アフガニスタンで医療、用水路建設、農業支援に尽くしながらも、201912月、武装集団の凶弾に倒れた中村哲医師。その中村医師を1998年から2019年の21年間・1,000時間にわたりカメラで撮り続けたのが、谷津さんです。

「会社の先輩に勧められた中村医師の著書『ダエラ・ヌールへの道』を読み、やっていることの凄さとその気迫に満ちた硬質な文章に衝撃を受け、自身のカメラで記録に残せたらと、中村医師を支援するNGO『ペシャワール会』に連絡を取りました」

会からは「中村医師は取材を好まない」と言われたものの、たまたま日本に帰国し、東京で用事があるという中村医師から「少しなら時間が取れる」と返事をもらい、面談が叶うことに。

「その筆致から受けたのは雄々しいイメージでした。けれど、お会いしたら、すごく小柄で、小さな声でボソボソと話される穏やかな方で、そのギャップに驚きました」

「何をしたいのですか?」「記録を撮りたいです」「いつ来ますか?」と予想外にあっさりと取材許可をもらいました。

そして19986月、アフガニスタンで医療行為を行う中村医師への同行取材に赴きます。延べ450日の記録が始まったのです。

「細かな打ち合わせもなく、どこでどう診察するのかも聞けず、馬に乗っての一緒の移動。中村医師をズームアップしても半眼訥々。耳にはイヤホンで、大好きなモーツアルトを聞いてるんです。そして、山に囲まれた草原についたら、『じゃ、待ちましょう』と高いびきで寝始めたんですよ。正直、これでドキュメンタリーが撮れるのか?と思いました」

翌早朝、人の気配を感じて目覚める谷津さん。道中で出会った遊牧民が、遠く離れてポツンポツンとある村に「医師が来たぞ」と伝令。それを聞いた人たちが、医師を求めて夜を徹して歩き、続々と集まっていたのです。

「中村医師の顔が一変していました。目力が違うんです。ああ、これが、医師・中村哲の本当の姿なんだと。一人ひとりを丁寧に、その人の暮らしや家族のことまで聞いて診察していく。『医は仁術』とありますが、仁の人だと思いました」

診察は無償。そのお返しにと、村人がお茶を入れてくれました。そのお茶を飲む中村医師。

「『おいしい』とニコッと笑顔。それを見て、囲む村人たちも和やかに微笑んでいました。その時、私は『ああ、カメラを下において、自分の目で見ていたい』と思ってしまいました。互いが互いを敬愛し合う温かなものがそこにはありました。『世の中にはカメラに映らないものがある。それをどうやって撮ればいいんだろう』、そう思ったことを覚えています」

自分の置かれた場所で、最善のことをやること

「アフガニスタンで中村医師、そして私自身も向き合った戦争や病、貧困、格差を、遠い世界のことだと思わないでほしい。つい3年前まで、アフガニスタンの地で、多くの人の命を守るために尽くした人がいたことを覚えていてほしい」と谷津さんは話します。

アフガニスタンは40年間にわたる戦禍、そして未曾有の干ばつと、生きていくことが過酷な時代を送り続けてきました。「人の命をないがしろにしてきた国だからこそ、まず、人の命を大切にすることだ」が、中村医師の信念だったと。

中村医師の座右の銘は「一隅を照らす」。自分の置かれた場所でそれぞれが最善のことをやると少しずつでも社会は変わっていく。そこで大切なのは「真心」。中村医師の思いです。

「昨年末、3年8ヶ月ぶりにアフガニスタンに行ってきました。リーダーがいなくなると、事業は途絶えてしまうことが大半です。でも中村医師が精魂込めて取り組んでいた『PMS(ピース・ジャパン・メディカル・サービス)』は誰一人として辞めてないんです。中村医師がやり残したことを、やってきたことをよすがとして、皆が、頑張りたいと言っています」

また、『ペシャワール会』のスタッフからこんな話も聞いたと言います。

中村医師が亡くなる前のこと。「先生、後継者は誰ですか?」の問いに、中村医師は「私の後継者は用水路です」と答えたと。

中村医師が命をかけて皆と作り上げた用水路は、今も、地域の人たちに守られ、流れ、地域の人を守っています。そして、これからも、ずっとずっと守り続けるはずです。

谷津さんが2019年4月にアフガニスタンを訪れ、中村医師を取材した時の一枚

谷津さん撮影・監督の中村医師の足跡を追った『劇場版 荒野に希望の灯をともす』。2022年秋に発表され、日本全国のさまざまな劇場で上映されています。

「ご覧いただいた方から『生き様に励まされました』との言葉を多くいただきました。日本が、世界が、苦境に置かれている今、中村医師が残した思索と実践を感じてもらえたら」

『劇場版 荒野に希望の灯をともす』の上映会は、多摩市でも、2023/2/18(土)に開催されます。谷津さんのトークの時間も有。ぜひ、ご覧に。

■劇場版 荒野に希望の灯をともす

 (TAMA映画フォーラム特別上映会 )

▼2/23/2/18(土)▼10:45~・13:00~・(トーク)14:40~・16:00~・18:00~▼多摩市立永山公民館ベルブホール(GoogleMapで開く)▼一般:前売1,200円・当日1,400円、シニア:1,000円、TAMA映画フォーラム支援会員・小中学生・障がい者と付添者1名:800円
購入は;PassMarket(こちら)から
または、多摩市立永山公民館、多摩ボランティア・市民活動支援センター窓口で購入

公式サイトはこちら

プロフィール

1961年栃木県足利市生まれ。立教大学社会学部卒業後、テレビニュース業界で働く。その後、日本電波ニュース社入社。1995年~98年、同社ハノイ支局長。登山経験を生かし、ヒマラヤ山脈、カラコルム山脈、タクラマカン砂漠など、辺境取材を多数経験。1998年~2019年、アフガニスタン・パキスタンで中村哲医師の活動を記録。第58回ギャラクシー賞テレビ部門特別賞、ATP総務大臣賞受賞。2022年、『劇場版 荒野に希望の灯をともす』発表。多摩市在住。

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