モリテツのキューバ・南米紀行8「再び巨匠を偲んで3」 (ハバナその8)

マーサが新聞広告で見つけたのが、ハバナの南14㌔にある白亜の邸宅「フィンカ・ビヒア邸」。鬱蒼とした緑に囲まれ、海も望めるこの屋敷がよほど気に入ったのか、ここに22年間住むことになる。4頭の愛犬と57匹の愛猫、さらには9千冊にも上る愛書と共に日々を過ごし、『誰がために鐘は鳴る』や『老人と海』などの名作を執筆した。
そこは今、ヘミングウェイ博物館として開放されている。タクシーを飛ばして行ってみた。市街地から南へ14㌔の農村地帯。ヘミングウェイは実は、マーサに連れられて最初にこの家を見た時は「ハバナから遠い上に家の漆喰ははげ落ち庭も荒れているのに家賃月百㌦は高すぎる」と難色を示したという。が、ヘミングウェイが遠洋釣りに出かけた間に、マーサが石工や大工を雇って大改修。見違える家に満足したとか。
博物館はドアも窓も開け放たれて内部を見渡せるようになっているが、中に入ることはできない。机の上の置物も煙草も本棚もそのままの書斎、鹿のはく製が見事なリビングルーム。
本館の脇には塔が立っている。ここも書斎らしい。ガイドに案内されて登ってみると、机の上には古いタイプライターが。このタイプで立ったまま書き上げたのが『老人と海』といわれている。庭に出てみると、愛艇「ピラール号」も置かれていた。
酒と釣りと執筆と…マイペースで生きることを満喫したヘミングウェイにとって平凡な夫婦生活は飽き足りなかったのだろう。マーサともわずか3年間で破局を迎える。「私はヨーロッパに参ります。もう戻ってはきませんわ、あのけだものの元には」これがマーサが主治医に語った最後の言葉だった。
- ヘミングウェイ博物館
- 書斎も当時のまま
- はく製が見事なリビングルーム
- 書斎の塔
- タイプライター
- ヘミングウェイの愛艇ピラール号
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