TamaHito 16
石塚 久美子 さん
伝統の“江戸小紋”と、 新たな着物の魅力を伝えたい
明治23年創業『石塚染工』 匠の技は父から娘へ
同じ柄を繰り返し染める型染めの小紋。中でも「江戸小紋」はその極み、細かくて繊細な文様の美しさは思わず息をのむほど。発祥は室町時代。贅沢が禁じられた江戸時代には、大きくて豪華な文様ではなく、遠目に無地に見える江戸小紋が大きく発展しました。
そんな江戸小紋の伝統を今に伝えようと奮闘するのが、八王子で130年の歴史を持つ『石塚染工』五代目・石塚久美子さん。父で四代目の石塚幸生さん(伝統工芸士、瑞宝単光章)との工房での日々は今でも試行錯誤の連続です。
家業の染めの仕事を幼い頃から見てきた久美子さん。いずれは引き継ぎたいと考えてきました。絵や手仕事が好きで、大学では日本画を専攻。
「弟子入りを父にお願いしたのは大学卒業時。でも断られました。甘い世界じゃない。まずは社会勉強をと」
いったんはアパレル会社に就職。しかし諦めきれず改めて弟子入りを懇願。2年越しに願いが実現しました。最初は、浴衣や手ぬぐいなど大きな柄から修業し、少しずつ江戸小紋も手がけるようになりました。
型彫師によって生み出された精巧な伊勢型紙を用い、微細な文様を染める伝統的な技法。細かい柄ほど職人の技術が表れ、ごまかしがきかないといいます。現在、機械捺染が多くなる中、手つけの染め技から蒸し・水元・地直し迄を一貫して行う『石塚染工』の仕事は貴重です。それだけに久美子さんには伝統を継承するプレッシャーも。
「どれだけ修業すれば父のようにできるようになるのか…それがわからない厳しさがあります。ただ日々挑戦の中、できなかったことができるようになることが楽しみでもあります」
着物に馴染みのない人にも 新たな試み“創作小紋”
日々の制作の中、伝統の染め物をアピールするための新たな試みも始めました。着物に馴染みのない人にも手に取ってもらいたいと、従来の江戸小紋の概念にとらわれず、明るい色合いの“手ぬぐい”や“浴衣”、数種の型紙を組み合わせて作る独自の柄の制作等、自身のブランド「形梅」で取り組んでいます。
「お客様の声を聞く機会が増えてきたのも刺激になっています」
この試みと同時に、久美子さんにはもう1つ、大きな目標があります。
「父のように難しい柄を染められるようになりたいですね。江戸小紋の中でも特に細かな文様の『極鮫』とか」
久美子さんの手がける美しい江戸小紋、その染め上がりが楽しみです。
プロフィール
2009年、女子美術大学日本画科卒業。アパレル会社勤務を経て、2011年、父・石塚幸生氏に師事。現在は自身のブランド「形梅」も展開。2児の母でもある
石塚染工
八王子市元横山町1-16-1
☎042(642)4400
[HP]http://tokyokomon.jp
[Instagram]@komonishizuka