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モリテツのスペイン紀行36「元大統領のそっくりさんと」(ログローニョ~グラニョン)

イスパニアの魅力は、陽光輝く紺碧の地中海沿いにこそ、と思い込んでいたが、内陸の地平線の果てまで広がる緑の原野を見渡していると、こちらこそこの国の象徴ではなかろうかと思えてくる。さほどに息を飲むような美しい風景が忽然と目の前に登場する。

ログローニョの宿の目覚めは爽やかだった。中庭を見下ろすと、みな思い思いにくつろいで、食堂では協力しあって朝食の準備。その席でブッシュ元米大統領のそっくりさん夫妻に誘われて乗用車に同乗させてもらうことになった。

車窓の風景に見とれた。小麦畑を貫いて一本道が連なる。時折、自転車の巡礼者が走り去る。こんなに田園を目にしたことがあっただろうか。

ナヘラの街に入った。凄い人出で賑わっている。河原に座り込んでピクニック気分。花見的雰囲気だが、花があるわけでなく、大人も川ではしゃいでいる。日本人が忘れてしまった素朴な姿を見せられた気がした。

そっくりさんの本名はウイリアム氏(52歳)。アトランタの衣料品会社社長だそうで、本国でもブッシュとあだ名されているそうだ。ご夫妻の今夜の宿泊地は60㌔離れたグラニョン。1時間もあれば着いてしまうので、途中、寄り道しながらのんびりドライブ。

この辺りは標高400㍍。猛暑の台地で陽気なお土産屋の若者が愛嬌を振りまいている。1、2ユーロの貝殻のアクセサリー。こんな高原で商売になるのか。あくせくせずに好きな時間に好きなことをしてゆったり生きる――それもスペイン人の人生哲学か。

昼下がり、シエスタのグラニョン村に到着した。気温35度。出歩く人もいない。土壁の集落は眠っているごとし。ブッシュさんがおっしゃる。

「ここの宿は一見の価値ありですよ。宿代も自分が払える範囲でOKなんだ」

「払わなくてもいいの。それどころか……」と奥さんが口を挟んだところで、「そりゃ、見てからのお楽しみに」とご主人。古ぼけた修道院の2階に宿はあった。受付で名前と国籍を記入すれば完了。ブッシュさんが傍を指差した。

「Please take……」とあって箱の中に沢山のコインが。「貴方がお困りなら自由にお持ちください」というのだ。宿帳を見ると、伊、仏、英、米、ブルガリア、アルメニア、スイス、南ア、ブラジル。イスラム圏のキルギスからも。総勢17ヶ国26人と国際色豊か。「ハーイ、あなたたち、ワインをあけてちょうだい」と言われて、シニア組が樽からピッチに赤ワインを注いだ。

ミサから戻ると、長テーブルにマカロニとパン、野菜サラダ……、デザートの梨も。卓につくと、仏人女性が「神に感謝を」とお礼の言葉。そこまでは厳粛な雰囲気。賑やかな晩餐が始まった。ワイン飲み放題の大宴会。韓国人の男性が立ち上がって「アリラン」を歌ったのを機に、カラオケ自慢の方々が次々に喉を披露。離席してステンドガラス窓の下で休んでいたら、元大統領がパチリ。

考えてみれば、巡礼とはいえ、教会できちんと祈っている人は案外少ない。クレデンシャルの記念スタンプを押して、楽しみながら歩く人がほとんど。サンティアゴ・デ・コンポステーラまで800㌔のうち、100㌔をこなせば成就と緩やかな決まり。ただ食い、ただ飲みでは天罰を食いそうで募金箱に10ユーロ納めました。

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