TamaHito 18
澤登 早苗さん
人が人らしく生きるために農業があるんです
有機農業を、教育として教えることで、人も育つ
多摩市南野にある恵泉女学園大学の教育農場。1年生は必修授業で、2年生からは選択授業で、農薬や化学肥料を一切使わずに、さまざまな野菜を有機栽培する実習を行っています。この農場で指導しているのが澤登早苗さんです。父親の芳さんがブドウの有機栽培を実践する姿を見つめながら育ち、国内外のさまざまな教育機関で農業に接し、学びを重ねてきました。
「有機農業を何とかしなきゃと思っていた1993年に、農場実習を有機栽培でやる人を捜しているのだけれどもやってみないか、と話をいただきました。そして翌94年、同僚スタッフと学生と一緒にゼロから有機農業をスタートしました」
最初の5年間は本当に難しかったと話します。土づくりは思うように進まず、当然、作物も思うように育たない。
「くじけそうになりました」
けれど、澤登さんは初志貫徹します。
「今年は獲れないから化学肥料や農薬に頼るのか、5年後、10年後のことを考えてやっていくのかだと思います」
その言葉通り、有機にこだわって年月を重ねるうちに「土ができてくるってこういうことなんだ」と実感する状況になっていきました。
「今回、コロナ禍で畑に人の手をかけることが全くできなかったんです。でもまるで草原のように繁る草が土を乾燥から守り、土を豊かにする生き物が育ち、結果、野菜も育っています」
この農業体験は、学生たちにも変化を生んでいくと言います。
「畑で多くの実体験を重ねることで、画一化された環境の中で育った現代の子たちが、〝ああ、世の中っていろいろあるんだ、人って同じじゃなくていいんだ〟と多様性を実感し、分かち合いを感じ合うようになる。これは次代のリーダーシップにつながると思います」
地元の農家さんの畑を私の台所にしてみては?
また、澤登さんは、多摩市農業委員として、多摩市の農業も見つめ、さまざまなイベントも提案しています。
「多摩市の農家さんは、一人ひとりが思いを持って頑張ってらっしゃる。凄いなと肌で感じています」
だから住民には、普段から人間関係を作っておいて、かかりつけの農家を見つけましょうと呼び掛けています。
「都市農業だから、それができる。せっかく近いところに台所があるんですから。その環境をもっともっと大切にしたいですね。それが生物多様性にもつながると思うんです」
本当にまるで草原のような教育農場。でも、しっかりと野菜が植えられています。授業の様子を動画で!
プロフィール
1959年山梨県牧丘町生まれ。東京農工大農学部卒、NZマッセイ大学大学院ディプロマコース修了、農工大大学院連合農学研究科修了。農学博士。現在恵泉女学園大学人間社会学部教授、多摩市農業委員。日本の有機葡萄栽培の第一人者として、山梨県牧丘町の「フルーツグローアー澤登」にてブドウとキウイフルーツを栽培。