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スペイン紀行22 「奇妙な遭遇にナイス」(バルセロナその1)

ときめくというほどではないが、ホームから列車に乗り込んだ瞬間は、別れの時は別としてどこか心が弾む。異世界に踏み出すという朧げな期待のせいだろうか。しかも世界地理を習い始めた中学生の頃から何千回と聞かされた都市が行き先なら気持ちも高ぶりがち。

バルセロナ……その響きもいい。サッカーファンにとってはまさに聖地だ。白い車体にブルーラインのユーロメッドに颯爽と乗り込んだ。全席指定のPreferent(ファーストクラス)。

発車間際、イヤフォンを渡される。座席前方にテレビ画面、映画が上映されるのだ。続いてウエルカムのオレンジジュース。途中停車駅は二つ。次のカステリョン駅を発車まもなく食事が出た。シェリーからウォッカまで何でもありだが、朝からそんな元気はない。が、グラスに注いでくれるというので、つい赤ワインを頼んでしまった。スペイン語の映画は絵だけでも楽しめるようコメディを上映。

3時間ちょっとでバルセロナ・サンツ駅に到着した。さすがにデカい。目指す宿には地下鉄で行く。事前に乗車券は2.2ユーロ(270円)もすると聞いていたので、半額以下の10回回数券を仕入れることに。自販機の扱いも慣れてしまえば簡単。

T-10チケットは10.2ユーロ(1,200円)。1回当たり120円だ。サンツ・エスタシオ駅まで歩き、3号線で次のエスパーニャ駅まで行って1号線に乗り換え、6番目の凱旋門駅で降りる。

そこから200㍍、「360ホステル・バルセロナ」が我が宿。いずれここにみんな集結する。1泊1,600円と思えぬほど広々として綺麗。世界の安旅人のトップランクの安宿だ。沈没組がアルバイトでフロント係も。といっても机1つ。

部屋で荷物をさばき、シャワーを浴びてしばしのシエスタタイム。午後4時頃、ロビーに下りると、いきなり「Hey,How are you!」と後ろから声をかけられた。

「ええっと、君は? たしか?」思わず日本語で返したものの、その後が思い出せない。すぐに察した若者が「マデイラ島のマテウスだよ」。「Sorry」と固い握手。

彼とポルトガル国境を渡った。バルセロナでサッカー観戦した後はブラジルの大学研究機関で働くはずなのになぜ長逗留?――実は故郷の母が重病にかかり、その手術代に渡航費や生活・雑費を充てたため、ここでアルバイトして資金を貯めているとか。

「でもねバルセロナはいい街だ。立ち去りがたいんだ」とマテウス君。国境越えの時は世話になった。国境の街ヴィラ・レアル・デ・サント・アントニオでは楽しいディナーもとった(「ポルトガル点描」第16・17回参照※2019/9/6・10/4号掲載)。今夜の予定を聞くと、「ここにはSAGRESビアはないけど、エストレージャ・ダムも美味いよ」。FCバルセロナ公認の地ビールだ。

午後8時過ぎ、同宿のイタリア人女性を交えて3人で出かけた。路地を何本も右・左折して1㌔ほど歩いたか。

角地で赤い炎のウインドウが目立つレストランのドアを開けてマテウスが入った。表には「LOS CARACOLES」(ロス・カラコレス)。

「バルセロナじゃ、サグラダ・ファミリア、サッカー場のカンプ・ノウ、それにここが入門編だ」

いきなり「オッラ!」と中年スタッフたちの元気な声。予約していたらしく、アンティークな階段を上って2階へ(写真10)。階段の手すりに妙なカタツムリのオブジェ。その陶器も飾られている。出されたグラス、パンの形までカタツムリだ。

「ここはカタツムリ専門店なんだよ。180年前の創業なんだ」

なんと1835年(天保時代)の創立。まもなく煮込み料理カラコレス・コン・サルサが出てきた。つまみ出して賞味する。コリっとした食感。玉ねぎやトマト、にんにくなどと土鍋で煮込んだらしい。

マテウス君とは前回も巻貝の夕食を食べた。カタツムリも巻貝だ。人との出会いも偶然なら、食べ物まで奇妙な遭遇。これも旅ならではのことか。少しバルセロナにときめいた。

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