モリテツのスペイン紀行25「シニアコンビ再び」(バルセロナその4)
クレマンさんが追っかけやってきた。会うなり親指を立ててニヤリ。まさか、と思っていたらそのまさかだった。カジノに行って再びポーカーで500ユーロ(60,000円)も大勝したそうで、当分の交通費もバルセロナ滞在費も心配ないと嬉しそう。誘惑には乗らないぞと固く誓った。
新しい旅先に到着したら、「まず大聖堂でお祈り」がクレマンさんの慣例だとか。「まずカジノでは?」と冷やかすと、「そんなこと言わずに付き合え」とおっしゃる。仕方ない。こちらは物見遊山だが。
歩いて500㍍。サンタ・エウラリア大聖堂もまたゴシック地区にある。カテドラルは都市の規模によって大きさも豪華さも違う。さすがにデカいというか、見るからに威厳たっぷり。礼拝堂の造りがまた見事。ステンドグラスの美しさも目を見張る。
クレマンさんは聖書でも暗唱しているのだろうか。10分以上座ったまま身じろぎもしない。それが終わって表に出ると「すぐ近くに行ってみたい所がある」と先に歩いた。裏側に回って7、80㍍歩いたか、小さな広場に突き当たった。
「Sant Felip Neri Church」と表示したスマホを示しながら「Googleで調べたら」とおっしゃる。弾痕の跡らしき無数の傷がある教会の壁に向かってクレマンさんは再び十字を切った。
サン・フェリペ・ネリ教会は子どもたちの悲劇を招いた舞台だったのだ。フランコ将軍率いる右派と左派の共和国軍が対立したスペイン内戦。1938年1月30日、フランコ派空軍が教会を爆撃、避難していた子ども30人を含む42人が爆死したというのだ。平和を願うシンボルとしてお祈りする人が今も絶えない。ただのギャンブル男じゃないな、とクレマンさんを見直してしまった。ちなみに路面電車に轢かれたガウディはその朝この教会に向かう途中だったという。
さて、この日の我が予定はバルセロナ入門編の仕上げ。残念ながらオフシーズンでリーガ・エスパニョーラでFCバルセロナを観戦はできない。ところがホームスタジアム「カンプ・ノウ」は年中、有料で見学させているというのだ。見学した米国人の若者が「Good!」と言うのを聞いて、是非と思った。
クレマンさんを誘うと半端ではない喜びよう。フランスもサッカー大国。当然だろう。地下鉄3号線ジ・ウマ・ペリエ駅から8番目のラス・コルツ駅で下車、500㍍ほど歩くとスタジアムにぶつかった。
世界のサッカー場ランキングでは最高のカテゴリー4。95,000人収容。カンプ・ノウの意味は何ぞや?と思うと、「新スタジアム」というのだそうだ。なんとも陳腐。それも投票で決まったとか。しかし、その中身はさすがに一級品ぞろい。併設の博物館を含めて観覧料29.5ユーロ(3,700円)というのだからばかにならないが。ツアー入口から入る。ロッカールームから貴賓室までほとんどを開放している。優勝トロフィーの数々。ありました、メッシのユニフォーム。イニエスタのシューズも。面白いのは監督やスター選手の記者会見室まで披露。記者会見室を有料開放など世界にないだろう。なんと小さなチャペルまであった。
現在、100,000人収容の新スタジアムに大改造中。総工費720億円。テラスを広くとり、光をより採り入れた太陽の国にふさわしい施設を目指すといわれ、バルセロナの街も一望できる名所にもなるという。その大工事を請け負ったのは日本の日建設計の技術者だ。
ところでバルサのゲームをカテゴリー1で見るといくらかかるか? 最前列で620ユーロ(78,000円)。いつも見ているワールドカップでは同レベルで20,000円程度。シーズン中であってもしょせんこのツアーが限界。それを聞いたクレマンさん、「ぼくは軽く入場さ」とトランプを配る仕草だ。