1. HOME
  2. モリテツのスペイン紀行40「愉しき変わり種の人々」(レオン~オ・セブレイロ)

モリテツのスペイン紀行40「愉しき変わり種の人々」(レオン~オ・セブレイロ)

 ヤン夫妻の車で出発した。朝の気温13度。昼前には35度のカンカン照り。葡萄畑に首にホタテ貝のお守りを下げた案山子が立っていた。緑の木立が涼しげな小高い丘に人が寄っている。丸太の椅子を並べた野外カフェだ。メロン、桃、リンゴ、オレンジと盛りだくさん。水やジュースもすべてドナティーボ(善意のもてなし)とか。イタリア人のホストはちょんまげに、背中には鷹のタトゥー。上半身裸で短パンに裸足。「変わり者だけど、ちょっとトム・クルーズ似ね」と美帆嬢。

 2つの尖塔がそびえるアストルガの大聖堂を過ぎて、ラバナル・デル・カミーノのカフェに休憩に入った途端、また変わり者に出食わした。ドアを押すなり、短髪のお兄ちゃんが「エイッ、ヤッ」といきなり空手突き。Tシャツの背には「極真」のプリント。日本人に親愛の情を込めた挨拶か。

 「横浜の道場に通って覚えたんだ。国王(カルロス1世)も空手をやるんだぜ。来年の日本行きが楽しみ」と笑って再度の気合。5人分のコーヒー代はなんと半額サービス。

 町中を渓流が貫く村を通った。透き通った水の美しさには目を見張った。猛烈な暑さだ。冷たい水に足を浸して休もうと降り立った。巡礼者の中にはビキニ姿で泳いでいる女性も。

 車窓に流れる風景が変わった。地平線の彼方まで麦畑が続く平原が消え、山あいの木陰の道が増えた。透き通るような真っ青な大空はなく、どんよりと曇っている。頬を撫でる風の感覚も、さらっとした感じではなく、しっとりと肌を包み込むような柔らかさだ。レオン県を抜けると、雨が多いガリシア地方。その風土は日本と相通じる。山々の緑は繁く濃い。よく笑いよく騒ぐスペイン人の陽気なイメージはなく、おっとりとした気性に見える。ニワトリを庭で放し飼い、豚や羊の飼育も盛んで、薪割り姿もよく見かける。パジョーサといわれる藁ぶき屋根の丸い家を見ると日本の山村を行く錯覚さえ覚えるが、庭先の白馬だけは日本ではお目にかかれないか。

 スペインでは辺境に当たるのだろう。暮らしが豊かには見えない。道路や標識など公共投資にも差がある。鄙びた雰囲気は魅力だが、住む人々にはどうなのだろう?

 標高1,300㍍のオ・セブレイロ峠に差しかかった。レオンから155㌔ほど走ったらしい。遥か彼方、レオン山脈の尾根伝いにか細い巡礼路が連なる。巡礼者は勾配が激しいあの小径を登っていくのかと思うと、痛々しくさえ思える。

 峠の頂にはレストランやホテル。不思議なことにどこも玄関わきに蛸のイラスト。「Pulpo」というらしい。こんな山上なのに、蛸が名物なのだ。110㌔先は北大西洋。食した。1皿12ユーロと高価。オリーブ漬けを爪楊枝で刺す。悪くはない。が、ワサビ醤油の方がよほど美味い。

 ここで泊まる気はしない。ヤン夫妻にお礼を述べ、まだ午後早いので3人でもっと先に進むことにした。石壁や屋根が崩れた廃屋が目立ち、限界集落の趣がある村に差しかかった。宿泊代7ユーロの安アルベルゲを見つけた。

 宿に入るなり、すぐ昼寝。目を覚ましたのは午後9時。宿のBARで何か食えるか。慌てて駆けつけると、若いウエートレスが店じまい中。「何か食べ物とセルベッサを……」と頼みこむと、生ハムとチーズたっぷりのボカディージョに赤ワインまでつけて姿を消した。勘定していない。間もなくオヤジが現れ、「こっちのボトルが冷えて美味いぞ。自由にしてくれ」とおっしゃる。「勘定は?」と問い返すと、「とられなかったのなら、それでいいじゃないか」とまるで無頓着。過疎の村の奇妙な大判振る舞いだ。これもまた随分変わり種。これだから旅はやめられない。

 翌朝には絶景のプレゼントも。丘の頂きに見事な朝日。長い柱の頂点に十字架。麓の人のシルエットが素晴らしく、まるで造作したような芸術的風景である。

関連記事